最悪の事態を迎えたとき

 事故は起こるべくして起こる。と、いうことでしょうか。


 ジェームス・R・リチャード著 高橋健次訳 草思社刊
 最悪の事故がおこるまで人は何をしていたのか
 原題「INVITING DISASTER:Lesson from the Edge of Technology」
 2006年12月28日 第1刷発行
 ISBN4-7942-1538-X

 過去から近年にいたる大惨事と呼べる事故をとりあげ、どのようにして事故に至ったかを調べています。
 近年の事故であれば唯一超音速での民間運行を行っていた引退間近のエールフランス・コンコルド旅客機墜落事故。スリーマイル島の原子力発電事故、スペースシャトルチャレンジャーの打上時の爆発・墜落事故、チェルノブイリ原子力発電所の事故などの大規模な事故から、オートマ車のブレーキとアクセルを踏み間違えた事故や医療事故などヒューマンエラーが引き起こす豊富な事例を取り上げて分析しています。
 著者がアメリカ人であることから米国での事例が多く取り上げられているのはいたしかた無いところでしょう。
 しかしながら、発電所や航空機、スペースシャトルといった巨大システムが引き起こした事故の端緒はほんのちょっとしたシステムの亀裂(システム・クラック)であると言っています。
 人知の及ぶ範囲は限られています。どれだけ安全対策を施しても、抜けやミス、想定外の状況に対する人間の反応などを全て包括して「絶対に安全」であるとは言い切れないのも確かです。
ソフトウェアにしてもハードウェアにしても信頼性試験の手法や確度は年々上がっては来ているものの、やはりこれとて、全てを見通すことができるわけではありません。
 そのような事態が訪れたとき、人が起こした事故をリカバリーできるのも人でしかありえません。
 これらの事例で取り上げられているいろいろな大型事故を網羅的について細かく原因を知ることができるのが本書の一番の特徴といえます。もちろん事故からの教訓を示唆する事も含まれています。
 私の不勉強なせいで知らなかったのですが、アポロ1号やスペースシャトル・チャレンジャー号などの宇宙事故の集められた残骸は、使用されなくなったICBMサイロの中にコンクリート詰めで封印されることを知りました。
 この本では取り上げられていませんが、スペースシャトル・コロンビア号の事故で集めた残骸も同じように処理されているのでしょう。遺族としては永久に見ることのできない遺品という状態に歯噛みするのが想像されます。
 日本では安全神話(この言葉自体が神話だが)がまかり通っているようですが、本書ではJCOの臨界事故に付いても短い記述ですが記載があり、取り上げられています。
 詳細はJSTの関連サイト「原子力百科事典ATOMICA/原子力図書館げんしろう」にて閲覧できます。
 分類検索→核燃料リサイクル→ 核燃料リサイクル施設の事故・故障→わが国における事故・故障・トラブル→JCOウラン加工工場臨界被ばく事故の概要
 かなり深い階層にありますが詳細なレポートが現在も閲覧できます。ご参考まで。
 マーフィーの法則です。人間、失敗に至る手順がある場合は必ずその手順を実行してしまうのです。
 安全に「絶対」は無いのでしょうか。

※マーフィーの法則も実はマーフィーの法則にはまってしまっており、間違う事があるのであれは必ず間違って伝えられ得るため、誤った使われ方をしています。