楽園の泉

 タイトルを見てピンと来た方、正解です(え、なにが?)。
 亡くなられました、アーサー・C・クラーク。ご冥福を祈り合掌。

楽園の泉
 アーサー・C・クラーク著 山高 昭訳 早川書房刊
 楽園の泉
 2006年1月31日発行
 原題:
 THE FOUNTAINS OF PARADISE
 Athur C. Clarke
 ISBN4-15-011546-X

 そう、居酒屋ガレージさんで紹介されていた「ふわふわの泉」の元ネタ本。
 ふわふわの泉で作られるのは軌道カタパルトでしたが、こちらは軌道エレベーター。乗るだけで宇宙服不要のまま衛星軌道上に移動する点はどちらも同じ。本文中では触れられていませんが、実際は軌道エレベーターを作り始める際に衛星軌道上から紐をおろすのが一番難関。高度差があるので大気の電離度が異なり、上と下で電位差が生じることで高電圧が発生してしまい両端で非常に危険な状態が生じます。
 さて、中身の方ですが、小説の舞台はスリカンダ。まるでアナグラムみたいですがクラークの終の住まいだったスリランカ(旧セイロン)がモデルでしょう。クラーク氏自身がスリランカの実際の場所との違いなどを解説してくれています。
 淡々と軌道エレベータを作る話が続きます。途中、あっという間に出来上がってしまっていたりする点があり、少し違和感を感じますが、異星人文化とのコンタクトや宗教的政治的な話なども織り成して進んでいきます。
 一先日、TRONの生みの親である坂村健氏がクラーク追悼の記事の中で語っていたことに「ほぅ!」と思ったことがひとつ。『クラーク氏の小説にはバカが出てこない』と。
 おぉ、確かにそうです。マッドサイエンティストや、不条理を押し通す映画の中でしか出てきそうも無いごり押し軍人などは一切登場しません。あくまでも粛々と、ある意味ロジカル(論理的)に振舞う登場人物ばかりなのです。冷たい印象を受ける方もいらっしゃるようですが、熱く燃え上がってバカな奴は見ていて結構辛いときがありますので、クラーク氏のようなスタイルは逆にあって当然と思えます。
 翻訳される方もクラーク氏の文章を如何に活かして日本語に仕立て上げるかという苦労もあるでしょう。
 静かに物語が進行し、結末を迎えます。
 読み終えると、キューブリックの監督した2001年宇宙の旅を見た後のようななんとなく釈然としない感覚が残りますが、そういうものなのでしょうか。

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