医学を志すことが無くとも、見たことのある人が多いと思います。
坂井建雄著 筑摩書房刊
謎の解剖学者ヴェサリウス
1999年10月12日 第1刷発行
ISBN4-480-04232-6
解剖学の世界ではかなり有名。実際に座学の段階で絵を見たことがある人がほとんどではないでしょうか。
取り上げられているヴェサリウスですが、実は謎の多い人でして、当時としては概念的な解剖図から、実際の人体を解剖した状態であるリアルな解剖図を掲載したファブリカによってセンセーションを巻き起こしています。
さて、本書の内容ですが、ヴェサリウスファンのヴェサリウスファンへの内容(笑)となっています。
ほとんどがヴェサリウス礼賛といったトーンで描かれており、「とにかく、凄いんだよ、ヴェサリウス!」といった内容です。
当時、外科は内科に対して非常に地位が低かったのと、実際の医療としての外科の発達と解剖学としての外科領域は全く別のことで、人体に詳しくて手術できる技能があったとしても、外科治療の内容として正しいかということとはかけ離れた話なので注意が必要です。
巻末で詳しく述べられていますが、外科手術ができるようになったものの決定的に現在と違う部分は無菌状態での手術という環境と、麻酔が無かったという事です。おなかを切り開くような大手術でも麻酔なしです。もちろん患者は痛みで絶叫し暴れまくりますので拘束します。ショックで亡くなる場合も少なからずありました。
その上手術器具は滅菌はおろか洗浄もしませんので人体の奥深くを切り開く行為を行った後は化膿ぐらいならともかく、最近がカラダに回って敗血症になるなってざらです。
解剖学の進歩だけが取り上げられることが多く思えますが、医療としての西洋医学は古代のまじないや民間療法などとほとんど変わらない状況でした。東洋では漢方が用いられていましたが、西洋医学の薬学も当時は大概でしたので、投薬で体調を悪くして死期を早めたりそのまま亡くなられることも多かったようです。
その点、少なくとも東洋医学、特に日本では処方される漢方で本当に内科的に治療につながる例が多かったことから、医療としては日本のほうが当時の世界ではましだったようです。