国立研究開発法人情報通信研究機構 未来ICT研究所の一般公開に行ってきました。
未来ICT研究所(神戸・岩岡)
エントランスの日本標準時表示
略称NICT。日本の標準時を管理していてStratum 1のNTPサービスも提供しています。
日本標準時を作り出しているのがセシウム発振器を使った周波数標準器。
周波数標準信号発生器(HP 5071A)
セシウムビームチューブカットモデル(右上)
実際に小金井の標準時を管理している装置と同型の周波数標準信号発生器とセシウム発振管のカットモデルが展示されていました。HP製(Agilent Technologyに移管後、現在はMicrosemiから販売されている)のユニット、なかなかいいお値段です(推定1台1,000万円以上)。
1秒の定義がセシウム133原子 (133Cs) の基底状態にある二つの超微細準位間の遷移に対応する放射の9192631770周期にかかる時間となっていますので、ここに内蔵されているセシウム発振器が安定した状態で発振している振動数から1秒が決められる事になります。
標準時の精度は10-12程度の精度を保持しており、NICT本局では厳重な電磁シールドルームにラックマウントされたこの装置を18台同時に稼働させ、正・副・予備の三重冗長構成で装置間平均をとってさらに精度を上げて運用しています。
今後は単体でさらに精度が出せる光格子時計の開発を続けています。
この一般公開の少し前の時の記念日である6月10日から小金井の本部の施設に加えてこの岩岡の建家内で神戸副局の運用が開始されました。担当の方とお話をさせていただくと、なんらかの理由(大規模災害を想定しているそうです)で関東の本部がアウトになった場合に標準時提供を停めることなく運用できるように副局をおいて分散するリスクマネジメント目的だとか。ちなみに予算の関係で神戸副局は本局よりぐぐっと台数が少ない5台の周波数標準信号発生器と水素メーザー2台を用いて運用しているそうです。
クリーンルーム
手前の装置はスパッタ装置
デバイスの試作(本当に動作原理から検証する)ためのライン一式を持っています
この部屋は成膜室で電子ビーム蒸着装置、スパッタリング装置、(見えていませんが)光学薄膜成膜装置が置かれています。
電子ビーム蒸着法は成膜対象材料を電子ビームで加熱蒸発させ、蒸発源上部に設置された基板材料に堆積させることで薄膜を形成します。
スパッタリング法は成膜法としては蒸着法とは別のポピュラーな方法で、装置内は高真空にし、放電によって出来たプラズマを生成し、プラズマイオンを電界で加速してスパッタ材料にぶつけ、材料から叩き出された原子によって基板に膜を形成する方法です。
電子ビーム蒸着装置
この日の見学では中にダストカウンターが設置されていかに内部の浮遊粒子が少ないかを見せてくれていました。
動作そのものが実現できるかどうかのレベルの試作も多い事から、所内で半導体製造プロセスを用意しており、すべて所内でデバイスの製作ができるようになっています。今回の見学した部屋以外にも電子ビーム描画装置や走査型電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡などの装置が設置利用されており、クラス1000に加えてクラス100(露光装置が置かれている)のクリーンルームもあり、これらを活用して次世代デバイスの開発を行っています。
ウェアラブル脳波計
既存の脳波計測に使われる装置を導電ペースト不要電極を用い、小型軽量・ワイヤレス化することで被測定者への負担の低減(QOLの維持・向上)を図りながら計測できる装置を開発し、それを用いたデモとしてゲームを行っていました。
BMIレーシングゲーム
ヘッドギアタイプの脳波計からBluetoothで測定データを伝送し、PC側で計測脳波から特徴抽出(フーリエ変換)してアルファ波(8〜13Hz)の強さからレーシングカーの速度をコントロールしてラップタイムを競うゲームです。
実際は集中度を示すとされるシータ波(4〜7Hz)も見ているとの事でした。
超伝導単一光子検出器(チップ素子部分)
超伝導ナノワイヤ(NbN:窒化ニオブ)によるミアンダ構造に光子が入る事でホットスポットが形成されて超伝導が壊れる事で単一光子の突入であっても検出する事ができる素子です。
光検出半導体としてアバランシェフォトダイオード(APD)が用いられてきていますが、動作速度が遅く、検出効率も低く暗時カウント数も多いなど高精度な測定には問題がありました。それらを克服するべく開発したのがこちらの素子で、光子検出毎秒7,000万個(70MHz)と毎秒40カウント(APDは毎秒16,000カウント)と大幅な暗カウント数の低減、高い検出効率80%(同10%)を達成し、さらに冷却に液体ヘリウムが不要で装置も小型化できるとの事。
またAPDの様にゲート動作が不要なため測定に同期回路も不要になって、より使いやすい素子だそうです。
マイスナーカー
超伝導現象の一つであるマイスナー効果を応用した浮遊して磁石軌道上を動く車のオモチャ。
車の中にはYBCO(Y:イットリウム、Ba:バリウム、Cu:銅、O:酸素で構成される酸化物系超伝導化合物)と液体窒素を保持するくぼみがあり、そこに液体窒素を流し込むとYBCOが超伝導状態になります。
超伝導状態になると外部磁場が超伝導体の内部に進入しないことから磁力の反発がおき、ピン止め効果によって浮遊したまま固定されます。よく浮いた磁石のようなものが示されている超伝導の一般的な現象の1つを応用して、磁石のレールにより誘導する事で非接触のままレール上を走るように動き回ります。
超伝導集積回路
超伝導状態で動作するジョセフソン素子を用いた超伝導集積回路。このときのサンプルは多分、NbNを用いた世界初のジョセフソン素子だったと思います。
写真の回路は何なのかをおお伺いするのを失念してしまい調べたのですが何か判明できませんでしたが、多分エラー訂正回路の一部だろうと…。
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