大阪のうどんといえば、まず「きつね」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
宇佐美辰一著 きつねうどん口伝
聞き書き:三好広一郎、三好つや子
筑摩書房刊 1991年11月20日 第一刷
ISBN4-480-81301-2
口伝なので、ほとんどが話し言葉で構成されています。
お話はきつねうどんの発祥のお店「松葉屋」二代目のご主人である宇佐美辰一氏(故人)。
話し言葉ということで、全編大阪弁で文章が書かれています。昭和の後半に取材が始まったのですが、ご主人は大正4年の船場生まれの人。やわらかな物腰のきれいな大阪弁で連なる文章が非常に心地よく感じます。これは大阪人であるという私個人の環境もあるのでしょうが、書かれている話し言葉が大阪弁のイントネーションで頭に響いてきます。
私自身も忘れかけていた大阪の言葉を思い起こさせてくれる希有な本でした。
今の漫才ブーム等で笑わせるためとはいえ、芸人が使っているえげつない・どぎつい言葉とは全く異なるまるでうどんのような言葉と言って良いでしょうか。そう、夢路いとし・喜味こいしの漫才のような言葉です。
もちろん内容はうどんに始まってその材料から作り方まで非常に広い範囲の内容となっていますが、全ての話がうどんに通じる内容なのが、興味深いところです。
最後に1つ、これぞ大阪人の特徴といわれそうな部分を引用させていただきます。
店舗で出汁をとるために使った鰹節や昆布を再利用して一品に仕立て上げてお客さんに供するのですが、そこで・・・
おきゃくさんが「うまいなあ」といわはったら、「そうでんな」というとったらよろし。だしを取ったあとの昆布やかつおですというと、具合が悪い。そこはやっぱり方便でっさかいに、黙ってニコニコ笑て(わろて)たら、お客さんは、この店はええ材料を使て(つこて)炊いているんやなあと思うてくれはります。
いやはや、したたかやないと商売成功できまへんなぁ(笑)。